村上龍の小説、「歌うクジラ」を購入した。全600ページ以上の作品だが、120ページばかり読んだところだ。iTunesで販売しているこの小説、iPadアプリという形式で1500円だ。iPhoneには対応していない。
まず表紙、暗い海に黒いクジラ、記憶が詰まった気泡がゆっくり上っていく。バックにはクジラの深い歌声。なかなか優れた表紙だ。動きも音もあるが、それらは控えめで読書への期待感を高める効果を出している。坂本龍一の音楽はこの本に十数箇所出てくる。特定のページを開くと特定の曲が流れるというようになっている。曲といっても、一般的な楽器を使った音楽ではなく、メロディーもないような環境音楽的なものでイメージを膨らませせてくれる。また、各章ごとにイラストがあるが、表紙と同じように暗い色調で、かすかに明るくなったりして若干の動きはある。だが、これも読書を邪魔するものではなく、この小説の中により引き込んでくれるものだ。このあたりのまとめ方はさすがだ。
ブックリーダーとしての機能は最小限のものはそろっている。明るさ調整、音量調整、ブックマーク、目次表示、ページスライダーなどだ。ただ、文字サイズ調整や画面の拡大などはできないし、文字検索などもできない。また、表示画面は1画面1ページ表示だけで横向きに2ページ表示することはできない。ページ送りは、i文庫HDや iBooksのページめくりとそっくりの動きをする。ただ、i文庫 HDではページめくりの表示方法を変更できたが、このアプリでは変更できない。こうして見ると、ブックリーダーとしてはちょっと物足りない。
ひとつ忘れていた。縦書きではなく横書きだ。文芸書で横書きは珍しい。私も最初は横書きに戸惑い、小説の中に入り込んでいけなかったが、それは最初の数ページだけだった。その後は気にならなくなった。横書きが標準のネットでの文章になれてしまったのかもしれない。日本語の電子書籍は縦書きだと自分でも思い込んでいたので、今回の体験は面白かった。
この本の一番の問題は価格だろう。1500円をどう見るか。
600ページ超だからもしハードカバーで出たら3000円前後にはなりそうだ。1500円だとその半額、安いといえば安い。でも私には高く感じた。音楽もイラストも効果的で素晴らしいのだが、iPad専用アプリだからiPadでしか読めない。iPhoneで読めないし、携帯でも読めないし、PCでも読めない。それに、ブックリーダーとしての機能も貧弱だ。紙の本ではよくやっていた友人への貸し借りも難しい。となると、1500円というのが高く思えてくる。
日経による報道では、「当初の販売目標を、電子書籍の開発コストが回収できる5000ダウンロード」となってる。単純計算だと、1500x5000x0.7=525万円が開発コストになる。「開発コスト=アプリ開発費」になるのかどうか分からないが、かなりの割合を占めているだろう。出版コストが印刷に比べると非常に安くなることが電子書籍の優れた点のひとつになっているが、「歌うクジラ」だとそのメリットがあまりないようだ。
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7月 21st, 2010
後藤 修身 (Goto Osami) 


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